Setoblog Written by Kazunari Seto

2ndアルバム「ある愛のテクノ」ライナーノーツ


「ある愛のテクノ」に寄せて

CDショップを経由せずに世界中から膨大な音源が直接PCやモバイルに

溢れるように流れ込んでくる時代に、個別の音楽の価値はどこにあるのかなあ。

最近、ぼくが日常的に聞いているのはヒップホップとK-POPとニコニコ動画

関係の音源ばかりだけど、ワールド・ミュージックやジプシー音楽の専門のよう

に思われていて居心地が悪い。エスニックっていう概念やカテゴリーはもう無効

になってしまって、かといってグローバルになるっていうんでもなくて、ローカル

・テイストな小さな音楽が細々と鳴っている、それが現代(ルビ:いま)なんだと

思う。“グローカル”とかって言ってる人もいるけど(笑)上に挙げたようなぼく

の聞いている音楽だってローカルだよ、結局。ルーツ原理主義や世界の隅々から

珍しい音楽を発掘する、みたいな素朴な異国趣味だって、そんなことしなくても

誰かが探したものをPC経由で映像まで簡単に見つかる時代なんだし。

はじめて瀬戸一成君のトランペットを聞いたのは7,8年前に「フレイレフ・ジャン

ボリー」っていう今は亡き和製の辺境音楽をやっているバンド、でだった。素直な

音を出す人だと思った。フレイレフ向きじゃなかった。今手元にあって聞いている

瀬戸君のセカンド・アルバム「ある愛のテクノ」はぼくにはとても馴染易い音楽だ。

同時代にYMOやプラスティックス、ヒカシューやP-MODEL, DEVOやクラフトワ

ークを聞いてきたし、Perfumeも大体聞いたけど、瀬戸君のテクノはそれらのどれ

とも違う。ファンク色をう〜んと薄めて、ノスタルジーやメランコリーやユーモア

をたっぷり含ませたセルフ・メイキングな作品で、どっちかっていうとラウンジや

モンドな風合い。ここに瀬戸君の日々の風景や、近所の食堂やこれまでの音楽経験

や未知なるものへの予感や、生まれた赤ん坊の将来やなんかのすべてを詰め込んだん

だと思う。ワウやディレイなんかの調味料を適度に混ぜ込んでプロ・トゥールズ社製

のキッチンで調理した軽いディナーがここにある。ぼくは6曲目の未完成っぽい曲

「海」がとても好きだし、気になっている。この曲だけは、なんだか日常の風景が切

り裂かれた中からマイルス・デイビスの遺伝子が飛び出してるような気がする。

63秒の裂け目がかっこいいと思う。

関口義人(音楽評論・テクノ愛好家)
2011.10.13